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健康経営向上コラム

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経営者こそ知ってほしい!
従業員満足だけにとどまらない健康経営の活用法とは

2023年の健康経営優良法人の応募者数は昨年より約1割増加しており、健康経営が多くの企業にとって重要な戦略として位置づけられてきたと言えるでしょう。経営戦略として健康経営に取り組む企業が増えたことで、従業員の健康や満足度向上だけにとどまらない健康経営のメリットが見えてきました。そこで今回はさらに広い視点に立ち、今話題の「人的資本経営」と健康経営の関係や、自治体と連携した地方創生の具体例など一歩先行く健康経営の活用法をご紹介します。

01-健康経営と人的資本の関係

昨年末に経済産業省主催している健康・医療新産業協議会 第7回健康投資ワーキンググループ1において、健康経営優良法人2023の応募者数が発表されました。前回のコラムで紹介した通り、認定申請料(大規模法人部門:税込88,000円/件、中小規模法人部門:税込16,500円/件)が新設されましたが、結果は、上場企業で前年より+70の1,128社、大規模法人部門で+299の3,168社、中小規模法人部門で+1,581の14,430社となり。全体では約1割増えています。理由は、金額的にも多額ではなかったので、企業にとってそれほど負担にならなかったものと思われますが、それでも多くの企業にとって健康経営が取り組むべき重要な“戦略”として位置づけられていると推察されます。

さて、昨年のマネジメント(経営)のバズワードの一つに「人的資本経営」があります。人的資本経営とは、経済産業省によると、「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。」2となっています。きっかけは米国証券取引委員会(SEC)が、2022年の10月から人的資本を財務諸表に開示するように命じたからです。以前から、ブラックストーン等の投資会社は、人的資本が株価に影響をあたえるため、開示の必要性を訴えてきました。具体的には、有名なプログラマーが別会社に転職すると、元在籍した会社の株価が下がり、転職先の会社の株価が上がる等です。裏を返すと、大切な経営資源の一つである“人”に関しては、財務諸表や有価証券報告書には開示義務はありませんでした。つまり非財務情報だったということです。その理由の一つに“人”が「無形資産」に該当し、金額として評価しづらかったからです。
さて開示の際、参考とするのが「ISO30414」3となります。2018年12月に国際標準化機構(ISO)が発表した、人的資本の情報開示のためのガイドライン、言い換えると人的資本の国際標準となる規格となります。目的は、人的資本の状況を定量化・データ化することです。具体的には、下記の11点です。

表1 ISO30414 Human Resource Management
1.コンプライアンスと倫理 2.費用 3.ダイバーシティ 4.リーダーシップ 5.組織文化 6.組織の健全性や安全性・Well-being
7.生産性 8.採用・異動(転勤)・離職率 9.スキル.能力 10.サクセッションプラン(後任計画) 11. 労働力のavailability

https://www.iso.org/standard/69338.htmlより、筆者作成

健康経営に直接該当する項目がありませんが、近しい概念として、「6.組織の健全性や安全性、Well-being」があげられます。これは、ISOが全世界の企業を対象に制度設計されるため、日本を含む先進国での取り組みは対象とならず、日本からみれば過去通った道である労働安全等に後退している印象すら持ちます。
そして各国は上記ISOを参照し新しい基準作りをすすめています。この流れは日本にも影響を与え、経済産業省は、2020年9月に発表された人的資源の株式評価について書かれている「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート~」4を、2022年5月には改定版として「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~ 人材版伊藤レポート2.0~(2.0)」5を公表しました。改訂版では、Well-being の視点の取り込みとして初めて健康経営(P70)への投資について触れられました。さらに同年8月には経済産業省の経済産業政策局産業人材課が主催で、「人的資本経営コンソーシアム」が組織化され、普及活動が始まりました。ちなみに健康経営は商務サービスグループのヘルスケア産業課が所管になります。
そして日本でも、ISOに準拠したHuman Capital Reportの開示を始める企業が現れ、10月末に日本で2社目認証の豊田通商(健康経営銘柄2022)の「Human Capital Report2022」6では、人的資本の経営に向けての取り組みの5つの内、強い個としてISOの項目に無い「健康経営」を取り上げ紹介しています。さらに同年11月には金融庁から「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案7が公表され(2023年4月以降の事業年度に係る有価証券報告書等から適用予定)、そのうち(2)では、「人的資本、多様性に関する開示で人材の多様性の確保を含む人材育成の方針や社内環境整備の方針及び当該方針に関する指標の内容等について、必須記載事項として、サステナビリティ情報の『記載欄』の『戦略』と『指標及び目標』において記載を求めることとします。」と発表されました。健康経営をサステナビリティの一つの戦略と捉えれば十分開示可能かと考えます。今後健康経営の取り組みが有価証券報告書等で開示され、株価に大きな影響を与えていくことを期待しています。
ちなみに、サステナビリティといえば日本では「持続可能性」と訳されることが多く、代表的な指標に持続可能な開発目標である「SDGs」があげられます。健康経営はSDGsの「3.すべての人に健康と福祉を」と「8.働きがいも経済成長も」に該当するだけでなく、ヘルスリテラシーの向上も期待できますので「4.質の高い教育をみんなに」にもあてはまるでしょう。また、ESG投資のSocial(社会)にも該当し、投資先に選ばれる環境になっています。つまり健康経営は企業のサステナビリティ戦略の一つに位置付けられるのです。さらに健康経営は、早ければ人的資本と同様に2024年にISO(国際標準)化が予定されています。

02-健康経営の今後の活用

ここでは、視点を変えて、地方自治体から健康都市の取り組みを見ていきましょう。最近では、地方自治体において、健康都市宣言を行っていない都道府県はないほど、健康都市宣言は全国で取り組まれています。健康都市とは、WHOによれば「都市の物的・社会的環境の改善を行い、そこに住む人々が互いに助け合い、生活のあらゆる局面で自身の最高の状態を達成するために、都市にあるさまざまな資源を幅広く活用し、常に発展させていく都市」と定義されています。
健康都市の考え方は、健康を「個人の問題」としてのみ捉えるのではなく、また、従来のように保健・医療だけで個人の健康維持・増進を図るのではなく、地域社会や都市のあらゆる分野を視野に入れた取り組みにより、「都市そのものを健康に」することで、そこに住む人々の健康で豊かな暮らしづくりを推進していこうというものです。下記が宣言している地方自治体の一例です。

表2:健康都市宣言を行っている市区町村の例
仙台市(宮城県) 水戸市(茨城県) 草津市(群馬県) 君津市(千葉県)
印西市(千葉県) 流山市(千葉県) 春日部市(埼玉県) 多摩市(東京都)
西東京市(東京都) 川崎市(神奈川県) 甲府市(山梨県) 名古屋市(愛知県)
白山市(石川県) 雲南市(島根県) 山口市(山口県) 宇部市(山口県)

なぜ地方自治体が健康都市宣言するか動機を探ると、対象とする地域に住んでいる住民の健康を維持し、医療費の低減等が期待できるからです。また都市から“人”を呼び戻すUターンやIターンも目指しており、イメージアップも期待されています。
では具体的にどのような取り組みが必要になるかというと、住民の健康診断の受診率の向上やウォーキング道路の整備等の健康増進施策をおこなっています。ただ地域では資源が限られており、従来から保健局等を通して健康管理や増進施策はおこなってきました。しかし効果が限られており大幅な改善が難しいのが現状です。
そこで健康診断受診がMUSTである健康経営企業を地域内に増やすことにより、健康診断受診率の向上やヘルスリテラシーの向上等での医療費の削減を期待して、地方自治体の中で動き始めました。私が講演したところですと一昨年は茨城県、昨年は東京都、山形県上山市、今年は沖縄県、岐阜県から依頼を頂戴しています。このように今で多くの都道府県が域内の健康経営企業を増やす取り組みを始めています。

次に、上述の通り地方時自体が域内の健康経営に取り組む企業を増やすだけでなく、最近では地方自治体が主体となって、健康経営向けサービスを地方創生の一環として開発する例がでてきました。一つの事例に山形県の上山市の「上山型温泉クアオルト事業」8があります。「クアオルト」とは、ドイツ語で「健康保養地・療養地」の意味で、自然環境や温泉、食などの恵まれた地域資源を活かして、健康経営を支援しています。すでに、保険会社を中心に協定を結んでおり、健康経営の一環で、1泊2日の健康増進施策等で利用が進んでいます。さらに地方創生の一環として、経済産業省以外の省庁が、話題になっている健康経営を活用しようとしています。それが林野庁です。林野庁では、「森林サービス産業」モデル事業【企業等の健康経営支援】9と銘打って、地方の森林資源の事業化の支援をしています。これは、地方創生の目的で、地方の資源(主に自然)を使って都心部から人を呼び込もうとする流れの中で、健康経営をフックにしようとしています。健康経営の文脈に載れば、地方に企業の従業員がくる理由の正当性が持てるのではないかと考えているようです。これは第1回で紹介した経済産業省の期待される効果の社会への効果にほかならないし、健康経営を推進している経済産業省ヘルスケア産業課の目的の一つであるエビデンスのある「ヘルスケアビジネスの創出」にも該当します。ぜひ健康投資ワーキンググループにて検討いただきたいですね。

いかがでしたか?本連載はこれで最終回となります。健康経営は健康経営銘柄の顕彰制度が始まってから10年も経っていません。まだ見えない効果や影響がたくさんあることでしょう。しかし取り組んでいる企業は実感しています。企業の方はまずは取り組みを始め、取り組んでいる企業はさらに進化させ、このムーブメントに乗っていくことが肝要です。また地方自治体の皆様も、せっかく流行り始めている健康経営を様々な手法で活用してください。将来は、関係者みんなで「健康経営」にはこんな使い方もある、こんな効果もある、等一緒に盛り上がっていければ嬉しいです。それではまたどこかでお会いしましょう!

※「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。